Vol.5

オリエント、その他の国の品質基準として用いられる尺度・用語

 

●トルコ絨毯…16/16、18/18

 

 トルコの絨毯はアナトリア絨毯とも呼ばれ、12世紀、中央アジアからアナトリア高原に移動してきたトルコ系民族によって織り始められといわれ、13世紀から16世紀にかけて、ヴェネチアの商人の手によってヨーロッパにもたらされ、異国趣味豊かな織物(ステイタスなシンポル商品)として、王侯貴族や富裕階層の間で一大ブームを巻き起こしています。このトルコ絨毯の品質をあらわす尺度として用いられているのが、16/16、18/18といった数字です。これはパキスタンやインドカシミール地方の絨毯などにも共通して用いられている品質評価のための尺度で、1インチあたりの横幅と縦幅の結び目の数を比のような形であらわしたものです。ちなみに頭の数字が横幅の結び目の数、後ろの数字が縦幅の結び目の数となります。両方の数値を掛け合わせると平方インチあたりのノット数が算出され、これが品質評価の基準となります。

 

●パキスタン絨毯…9/18、10/20、11/22、16/16、16/18

 

パキスタンの絨毯づくりは、16世紀ムガル朝のアクバル大帝がペルシアから織り職人を招聘し、ラーホールなどに宮廷用絨毯の工房を設立したのが、その始まりとされています。1947年のインド、パキスタン分離独立に際し、イスラーム教徒の国であるパキスタンには多くの織り職人が移住し、やがて生産性を重視した独自の絨毯づくりがスタートし、今日にいたっています。このパキスタン絨毯の品質表記はトルコと同様、1インチあたりの横幅と縦幅の結び目の数を比のような形であらわします。ただ、バキスタンの絨毯は、ボハーラー・デザインと呼ばれるトルクメン・ギョーリ(紋章デザイン)の反復柄のものと、ペルシアン・デザインのものでは、織り構造が異なり、数値にある特徴が生まれます。ボハーラー・デザインのものは、よこ糸が一本のシングル・ウェフトで織られるため、すべてのたて糸が同一平面上に位置し、1つの結びに対して目数が2つとなってあらわれます。このため、9/18、10/20、11/22、12/24といった表記となります。一方ペルシアン・デザインのものは、ペルシア絨毯と同様に、よこ糸を2本以上わたすダブル・ウェフトで織られるため、たて糸が上下になり、裏からは1つの結びに対して下のたて糸の結び目1つしか見えず、16/16や16/18のようにほぼ同数の比として表記されます。

 

●インド絨毯

 

インドの絨毯づくりもパキスタン同様ムガル朝に端を発します。当初ペルシア絨毯に倣った絨毯づくりも、ムガル宮廷文化の影響を濃くしていきますが、帝国衰退とともに英国の管理下での絨毯づくりに受け継がれます。分離独立後は、カシミール、ラージャスターン地方とヴァラーナースィー地方で絨毯づくりが受け継がれています。

 

◆カシミール地方…16/16 パキスタンと同じインチあたりの縦横のノット数で表されます。

 

◆インド(バドーヒーおよびヴァラーナースィー(ベラナシ)地方)…5/40、9/60、12/60

最初の数字はビスと呼ばれ、横幅9/10インチあたりのノット数、あとの数字はブータンと呼ばれ、長さ4 1/2インチあたりのノット数。ヤードを基準としており、9/60だと(9×60)÷(0.9×4.5)で約135kn/in2となります。

 

●中国絨毯…90段(90line)

 

中国における絨毯づくりは古いようで新しいといった複雑な局面を見せます。それは中国絨毯が、中国中央部と異民族の支配する西域という2つの舞台を有するためです。西域における絨毯づくりは古く、紀元前3世紀頃の絨毯断片が発見されています。中国中央部では絨毯は明朝末期に中国らしい意匠のものが現れ、今日のウールやシルクの輸出向けの中国緞通がつくられるようになるのは19世紀末から20世紀になってからのことです。1904年のセントルイス万博で北京緞通が一等賞をとり、やがて中国緞通にも世界の注目が集まり、手織り絨毯の一大産国としての地位を確立していきますが、近年は改革・解放経済による高度成長の波に押され、その生産量は減少傾向にあります。この中国緞通における品質の評価や表示は、横幅1呎(フィート)あたりの結び目の数を段数であらわしたものでおこなわれます。120段だと120/12で1インチあたり10ノット、10×10で100kn/in2となり、240段だと240/12で1インチあたり20ノット、20×20で400kn/in2となります。1フィートは約30cmですから、300段だと1cm四方に約10×10の結び目があるペルシア風の細かい織りの絨毯となります。